《取次師》悲しみが今日も言葉を紡ぐ

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久しぶりですね。

私を呼ばれたようで、

「呼んでない」

「いいえ確かによびましたよ、その証拠にあなたは泣いてる。そう、岡田有希子を聴きながら泣いている。
健全な人が、岡田有希子を聴きながら泣いたりしませんよ。京王線なんか乗ってどこに行くんですか?」

「ハローワークだよ」

「分かっているでしょう、なんで悲しくなるのか。あなたは分かっている、そしてその悲しみが私を呼び出すんです。悲しみがいらないなんていっちゃいけない、私がいるから創作ができるんですよ。むしろ、感謝してもらいたいくらいです」

「泣かないといけないぐらいなら、君なんていらなかったんだ」

「分かっていない、全然わかっていないのに、分かったようなふりをしている、てんで話にならない」

まったくばかげている、取次師はいつも私とともにあった、ある時は眠っていたが、ずっと私とともにあった。それは悲しいことだが、はるか古のぬくもりに因果しているようでもあり、まったくもって理解がないとは言い切れない。あの人、またあの人も、取次師を称賛していった。しかし、それがなんになるだろうか。

現に私は苦しんでいる、電車に乗りながら、泣いたり、それを補おうとニヤニヤしたり、世界の起伏に富んだその情景のみでしどろもどろし、感情が整理できないでいた。

確信があるわけじゃない。それは遠い昔、ある温もりの中に発したようであり、世界の必然であり、あるものは取次師となって、あるものは殺人鬼として、あるものは宗教家として発生をした。

取次師のいう通り、見たわけではないが、私はおおよその悲しみを理解はしていた。しかし、だからといって、彼を歓迎するわけにもいかなかった。

「ハッキリ言ってあなたは恵まれている。私は同じような立場の人を何人か見てきたけど、もっと苦しんでいる人ばかりだ。もっと、自分らしくあっていい、あなたは私のいうことだけをきいていればいいんだ」

私は反論した

「君のいうことだけきいてちゃ生活なんてできない。世界が均質化した時に、私のような存在が何の役に立つんだ、教えてほしい。皆が、本当のことを言わないから私はおかしくなってしまった。誰も言ってくれなかったから・・・」

「だから、私はあなたに本当の世界をみせているつもりですよ。それが嫌だというのなら、この世界から降りればいい。あなたがそれでいいなら、世界のことわりのひとつとして言わせてもらいましょう、想像の中にしか、真実なんてないんですよ。それが、本当の意味での、あなたの信じられるものになるでしょう、いつかきっとね。

私の発生源を肯定しろとは言わない、とても複雑なんです。あなたには理解できないでしょう、しかし、私を使いなさい。そうすることによって、あなたは過去とつながり、すべての因果とひとつになれる」

しゃべりたいだけ勝手にしゃべって、取次師は消えていた。

私の涙も乾きはじめていた。電車を乗り継ぐ頃には冷静さを取り戻し、私は、社会の輪をくずさぬように立ち上がった。

私は、エレベーターに乗ろうとするもあきらめて、不自然な格好で階段をのぼった。

想像の中の真実、取次師に言われた言葉を想っていた。

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