こども「おじさん誰?」
クニヤメ「おじさんはね、ある人から頼まれてね、未来から来たんだ」
こども「なんで?小学校では知らない人にはついていくなっていわれてるよ」
クニヤメ「ついてこなくてもいいんだよ、ここで少し話してもらえればいいんだ。とても大きなお金が動いているんだよ、おじさんにもよく分からないけど、君を助けてくれるお話だ」
「今からいうおじさんの話をよく聴いて欲しい、いいね」
子供はうなずかなかった、返事もなかった。ただ通学路を分断するように流れる町の川に吹く風が、静かに勢いをつけたかのように感じた。
私は未来からただ言われるままに戻ってきた、しかし概要はよく理解していない、ただお金が入って、子供の頃の自分に会えるということで、私に迷いはなかった。いろいろ後悔するかもしれないけど、なにかを動かして歯車となりたい気がしていた。
私はゆっくりと話し始めた、
クニヤメ「いいね、これから話すことをゆっくりとただ聞いてくれるだけでいいんだよ、なにかを変えようとか思わなくていい、君は君のままでいいんだ」
子供(私)は小さく頷いた。
クニヤメ「今から2,30年後、未来の君は無職となっているんだ。つまりなにも仕事ができない居場所がない状態になってしまうんだ」
こども「どうして?」
クニヤメ「うん、いろいろな問題がある、でもね、一言で言うと競争に負けたんだよ。少し難しいかもしれないけどね・・・」
子供の様子が変わって、少し戸惑っているようだ。良かった、無職という概念がなんとなく通じるようで私は一安心した、しかしその後の子供の言葉は驚くべきものだった。
こども「おじさん、僕がそんな風になるわけないよ、僕今たしかに友達が減ったけど、また保育園の時みたいになれるように必死に頑張ってるんだ。」
私はふいをつかれたが、マニュアル通りにただ自分の現状を説明しようとした、
クニヤメ「学校を出たらね、頑張るだけではだめなんだよ。お金を稼げないといけないし、女の子にもモテないといけない、競争に勝たないといけないんだ。だから君は悪くない」
それでも子供(私)は納得していないようで、馬鹿だけど必死で絵を描いていること、書道もほめられること、友達のことなどを話してくれた。マニュアルには簡潔に状況を伝えろと書いてあったが、私はロボットではない、約25年前の自分の言葉に耳を傾けてしまった。
こども「生きるのがつらい、でも僕頑張ってる、だからきっとよくなるんだ」
私は何も言えなかった、いうことができなかった。私はただ涙がほほをつたうのを感じながら、子供の言葉に頷いていた。
あらかじめ腕に巻かれていた機器から、ミッションコンプリートの文字がアラームと共に表示され、引き揚げレーダーの詳細な場所とデータが記されていた。
涙でグシャグシャになった私の顔を不思議そうに眺める子供を見ながら、私は思った。この未来でも悪くはなかったのかもしれない、しかし、今の眼の前にいる子供(私)は私とは違う未来を歩んでいく、それが正しいことなのかは分からなかったが、私はただただ嬉しく誇らしく思った。そして私は私に、ありがとうとだけいうのが精一杯だった。
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